国際財務報告基準(IFRS)の勉強方法とおすすめサイト
はじめに
この記事は会社の経理担当になったものの、その会社が大企業だったことから、不幸にもIFRSへの対応が必要になってしまった人向けに、IFRSへの立ち向かい方を説明する。
一貫した結論は、「IFRSの勉強のためには、まず日本基準を勉強して、差分でIFRSを抑える」というものである。以下ではその理由とおすすめのサイトを紹介する。
そもそも日本基準とIFRSとの差異は(実務上は)そこまで多くない
大前提として、実務における日本基準とIFRSの差異はそこまで多くないと思っている。あくまで実務上なので注意してほしい。つまり実際のところ差異はあるが、金額重要性の観点で、対応不要にできるはずという意味だ。
以下はKPMGが毎年更新している日本基準とIFRSの差異一覧である。60ページ強と非常に多いように見えるかもしれないが、金額重要性の判断を挟めば、大半は切って捨てることができる。おそらくあなたの会社でもIFRSの適用について、監査法人とディスカッションした履歴が残っているはずなので、見比べてほしい。かなり論点を足切りしていると思う。
KPMG「IFRS®基準と日本基準の主要な相違点(2022年版)」
https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2019/04/ifrs-compared-to-japan-gaap.html
金額重要性を考えると新会社には15項目くらいの問い合わせパッケージを作って対応すればいいと思う。そのうちのほとんどが予定調和的に「重要な差異なし」の回答をもらう項目であって、実際に組み換え対応させるのは5項目程度である。
日本基準とIFRSの差が大きい項目
特に重大な項目は日本基準上でも要組み換え項目として列挙されている。下記はどの企業でもまず問題となる項目で、IFRSと日本基準の差異が特に大きなポイントである。
- のれんの償却
- 数理計算上の差異のリサイクリング
- 研究開発費の即時費用化
- 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
- FVTOCIに指定した株式に関するリサイクリング
実務対応報告18号
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2019/2019-0628.html
これは私見だが、実務対応報告18号の5論点と使用権資産の取り扱い、減損損失に関する論点(兆候判定と戻入処理)が基本となって、あとは業種や重要性によって対応不要として処理するのが現実的だ。
IFRSの解説サイトは非常に難解である
ネットで調べればすぐに察するが、IFRSの解説サイトは非常に難解である。検索して先頭に出てくるのは監査法人の解説サイトだが、これはトラップである。
想定読者のレベルは簿記1級程度である
まずIFRSの細かな会計処理を調べている時点で、会計士か、そうでなくともIFRSを採用するような大会社の経理担当が想定されている。IFRSを導入するような大会社の経理実務は最低でも簿記1級レベルはある。そのためIFRSを調べるような人は簿記1級くらいはわかってるでしょ、という前提で記載がされている。
具体的に言えばIFRSの解説サイトは、退職給付の連単差、税効果の回収可能性判断、リサイクリング処理は知っていることを前提にしていて、説明を記載しないか、これを流している。
だからIFRSの解説を読んで理解できないなら、それはおそらく前提となっている日本基準を理解できていないのだと思われる。IFRSがわからない原因が、日本基準がわからないことにある、逆説的な状況になっている。
IFRSは原則主義であって、細かな事例が記載されない。
IFRSの考え方も難解さに拍車をかける。IFRSは原則主義を掲げているから、全体的に何が言いたいのかわからない。他方日本基準は細則主義といわれる通り、そもそも内容が細かく具体的だし、適用指針の巻末には細かな設例が乗っている。IFRSはそもそも具体例を挙げて説明するように基準が作られていないから、監査法人のサイトも具体例を挙げない、抽象的な記載になっている。
ただ、幸いにして最近の日本基準はIFRSと軌を一にするような取り扱いが規定されることが多い。よって日本基準の適用指針などはIFRSの具体例の補足として活用できることが多いので試してほしい。
日本基準の勉強について
まずは自分の担当範囲の簿記一級を勉強するとよい。具体的な計算を知ったほうが説明がしやすいし、説明がよくわかるからである。次に会計処理の背景にある考え方を知るために、日本基準の会計基準を読んでほしい。特に「結論の背景」にはなぜこのような会計処理をするのか、ほかの会計処理でなぜだめなのかが記載されているので、重要である。
IFRSの勉強について
実務書を購入するとよい。さらに言うとタイトルにIFRSがついておらず、サブタイトルか、一つの章くらいのレベルで取り上げられている本が良い。先述の通りIFRSを理解するには日本基準から攻めたほうがよく、IFRSから直で攻めるのは難しいからである。
また以下のような無料コンテンツがあるから活用してほしい。
KPMG「オンライン基礎講座 日本基準・IFRS®基準」
https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2017/03/online-basic-ifrs-jgaap.html
以上