野生の会計屋の雑記帳

野生の会計屋です。公認を受けるために研修に励む傍ら、田舎でIFRSと戯れています。

退職給付会計の簡便法:②数理債務と退職給付会計の計算構造

はじめに

前回の記事で、適用指針の簡便法が指定している数理債務についてざっくり知っていただけたと思う。そしてその数理債務が退職給付会計における退職給付債務に近しいこともイメージいただけたと思う。

 

両者がイコールであれば、そもそも簡便法にはならない。またアクチュアリに退職給付債務(PBOと略)を計算してもらう必要もない。つまり両者には少し違いがあるということになる。

 

両者の違いは制度の目的から生じている

まずは年金財政と退職給付会計の目的を整理する必要がある。

 

年金財政の目的

年金制度は年金規約や年金規定によって定められた給付を行うことを目的としている。そしてその給付を行うための原則として、「収支相等の原則」がある。

 

掛金の総額+積立金の運用収益の総額=給付の総額

 

前回の記事で解説した内容と同様である。つまり将来払う金額と同額を、掛金か運用収益で賄いましょうということである。

 

(ここから意訳が入るのでご留意いただきたい)

上記原則を満たし、基金終了のタイミングでソフトランディングさせる可能性を高めるために、どうすればよいか。答えは長期にわたる平準化である。

 

年金財政はある瞬間の人員増や、人員減に一喜一憂することはない。足元で必要な給付額が用意できてさえいれば、あとはいつ来るともしれない終わりの瞬間に収支が合っていればよいのである。足元の変動は長期平準化して掛金に織り込めば、増減が相殺される(退職給付会計において未認識数理計算上の差異を遅延認識する理由と似ている。)

 

一言でいえば、現在ではなく、将来における金額が主眼にある。

 

退職給付会計の目的

企業が負っている退職給付の支給義務を表示することが目的である。そして「退職給付債務は、退職により見込まれる退職給付の総額のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算する」(基準16項)。

 

期末までに発生している金額とは、つまり過去の金額であり、今時点の残高ともいえる。重要なのは将来の給付額の予想ではなく、今時点での債務であり、これに対応する今時点の過不足である。

 

それぞれの目的と計算構造

上記の説明を図示したものが以下の図表である。同じようなものを計算しているが、退職給付債務が現在までの勤務発生額を積み上げて算出されていること、数理債務が将来給付から将来掛金を差し引いて算出されていることを確認してほしい。

 

★退職給付会計の計算構造

 

★年金財政の計算構造

具体的な相違点

年金財政がわかりやすいが、給付資金が不足することを回避することが第一目的にあるから、ここから算出される金額はやや保守的となる。掛金額も平準化される。また企業年金は企業の意向を反映できる部分がある。

 

一方で退職給付会計は現状の開示が目的にあるから、算出される金額は最善の見積もりとなる。また各期の発生額は足元の増減動向を反映する。

 

その他、ここからは年金財政に関する用語を紹介する。…続く。