野生の会計屋の雑記帳

野生の会計屋です。公認を受けるために研修に励む傍ら、田舎でIFRSと戯れています。

退職給付会計のIFRS処理ポイント

はじめに

退職給付会計のIFRS対応について、理解のポイントをザックリ解説します。これさえ分かっていればある程度知ったかぶりできるくらいのレベルになれます。ある程度日本基準をご存じな初心者にお勧めします。

 

結論

  1. 名称が違う。年金資産→制度資産、数理計算上の差異は再測定費用
  2. 期待運用収益という概念がない。退職給付債務にも制度資産にも一律に割引率を乗じて利息を算出。その利息は金融損益の「純利息」として別掲表示
  3. 過去勤務費用はPL即時認識、再測定費用はOCI即時認識。
  4. 再測定費用はリサイクリングしない。直接利益剰余金に振り替えOK。

 

解説

名称について

理由はどうあれ、年金資産とは呼ばずに制度資産と呼ぶ。まずは単語に慣れよう。

また再測定費用という単語が出てくるが、これはつまり数理計算上の差異に当たる。後述の通りIFRSの退給利息計算は期待運用収益を使用せずに、割引率を使用する。予測値が日本基準とIFRSで変わるから、制度資産から生じる再測定費用は、年金資産から生じる数理計算上の差異と不一致になる。ざっくり言うと期待運用収益と割引率の差分*期首年金資産分はずれるということになる*1

 

利息計算について

日本基準だと退職給付債務には割引率、年金資産には期待運用収益を乗じて計算する。異なる率を乗じる都合で、それぞれ別個に計算する必要があった。IFRSは両方ともに和割引率を乗じるから、別々に計算する必要はない。なので期首退職給付債務と期首制度資産の差額、純額に割引率を乗じてやれば楽ちんである。

 

割引率を乗じる対象が債務(利息を乗じると損)と資産(利息を乗じると益)の純額になるから、ここから出てくるPL損益は「純損益」と呼称する。

 

日本基準ではこの利息費用及び期待運用収益の収益は、バーチャルな利息であって退職給付として結実するから、退職給付費用(営業内損益)に混ぜていた。しかしIFRSはそこをちゃんと分けたがるので、金融損益に計上される。

 

過去勤務費用と再測定費用の処理について

日本基準では過去勤務費用と数理計算上の差異はいずれもOCIで認識して、リサイクリングでPLを通すことになる。IFRSは過去勤務費用を即時PL認識、再測定費用は即時OCI認識してリサイクリングしない。とりあえずミスった時の金額影響が大きくなりがちなので、過去勤務費用はPL認識と覚えておいてほしい。

 

再測定費用のノンリサイクリングについて

再測定費用をOCIで認識し、その他包括利益累計額(AOCI)に蓄積していく。ここまでは日本基準と同様である。日本基準ではこのAOCIに計上された金額を規則的に取り崩しPL計上するので、包括利益計算上のダブルカウントを防ぐ趣旨でOCIで減算する(リサイクリング)。

 

IFRSはそもそもそんな面倒なことはしない。AOCIに計上したまま放っておくか、利益剰余金に直接振り替えてしまう。これによって利益剰余金の(資本取引を除いた)期中増減額はPL純利益と一致しない。つまりクリーンサープラス関係が成立しない。しかし純資産の(資本取引を除いた)期中増減額は包括利益と一致するから、日本基準のような2層構造のクリーンサープラスが成立しないだけで、純資産のクリーンサープラスはIFRSでも成立する。

 

なおAOCI→利益剰余金の直接振替額は、株主資本等変動計算書に振替額として記載されるはずなので、これを見れば状況がわかるようになる。IFRSではしばしばリサイクリング禁止となるOCI項目があるので注意してほしい。ノンリサイクリングのよくある項目としては投資有価証券の評価益をOCIで認識したときのAOCI残高がある*2

 

 

*1:割引率を使うことで恣意性を排除できる。期待運用収益は言ったもん勝ちなところがある一方で、実際の市況を反映できる。価値判断の問題としてIFRSは水ものな予測よりも、堅い数字を使いましょうというスタンスをとっている。

*2:正確には取り消し不能のFVTOCIオプションを指定した資本性金融商品に係る評価差額とか言ったと思う。呼び方はうろ覚えですが